今日もくゆらす

とりとめのないことを思い出したら @v_hata

ワケなくV6を好きになったわけじゃない 二章

お久しぶりです。くゆらすです。

仕事に追われていたらあれよあれよと11月1日も学校へ行こうも過ぎ去ってしまいました。

しかし無事ツアーオーラスには行けた幸運なくゆらす。

コンサートのレポートも追って書きたいと思いますが、

まずは見切り発車で出発してしまったこのシリーズを終えるために、

V6を愛する皆さんが正攻法で愛を吐き出している中、

私は全くもって本人たちとは関係のない形で、V6にゆかりのある

個人的なお話しを綴りたいと思います。この章もかなり長くなりました。

しょうもなさは前エントリーの一章を読めばお分かり頂けるかと思いますので、

お暇な方は先にそちらをどうぞ。

 

②1996年「誤認ハンサムマン」事件

 

前章でも書きましたが、くゆらす子はこの頃父の仕事の関係で、某東南アジアに住んでいました。

もちろん当時は今のようにインターネットなどはなく、日本の最新情報をリアルタイムで知ることは困難な作業。

ただ、比較的日本人が多い国な上、日本人学校に通っていたこともあり、

全くの異国生活…という訳でもなく、中途半端に間違った日本のトレンドが耳に入ってきていたのを覚えています。

例えば「チェリー」ってバンドの「スピッツ」って曲が売れている、だの

愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」という新曲を歌うのは「PUFFY」という二人組ユニット・・・

などなど、「惜しい!」と言わざるを得ない誤情報で、

母国から遠く離れて暮らす日本の子供たちは胸を躍らせていたものです。

 

遠ざけられると強く欲するのは人間の常。

私が通う日本人学校、引いては多感な年ごろに突入する小学校高学年のクラスメートたちの間にも、

「最新の日本トレンドをいち早く正確にゲットする奴がヒエラルキー上位=イケてるグループ」という構図が出来上がりつつありました。

当時(今でもあるようですが)、日本人が集うコミュニティクラブがあり、

そこでは1~2週間ほど遅れて日本のバラエティ番組やドラマが今は懐かしいVHSで貸し出されていました。

人気のタイトルは常にレンタル中。いち早くどの家族よりも観ることに大人も子供もしのぎを削っていたようです。

しかしクラスカースト上位に食い込むイケてる彼らは、クラブで借りるVHSなぞには依存しません。

イケてる彼らの武器は『Myojo』などのアイドル雑誌。

日本にいる親戚に発売時に送ってもらい、3日程度のタイムロスで最新情報を手に入れられるイケてる彼らは、意気揚々とクラスのイケてるメインストリームを突っ走っておられました。

一方その頃のくゆらす子はと言うと。

前述した通り、遠き国のトレンドより隣家の飼っている得体の知れない動物に胸ときめいていたおぼこい少女。

そして唯一日本のものに夢中になっていたと言えば、父の書斎から拝借して読んでいた、

柳田邦男や夏目漱石三島由紀夫などの純文学のみ。

今考えると11歳や12歳そこらで三島由紀夫なんて、「意識高いたかーい」で50メートルぐらい宙に飛びそうなクソガキですが、

くゆらす子家族もスポーツ新聞記者の叔父がいるのに、日本の芸能情報には全く興味がなく、文学を「娯楽」として当たり前のように子供に与えていたため、

当時は自意識の高低などを考えることもなく、クラスメートたちがチェリーのスピッツやハードロックなPUFFYに夢中になるのと同じように、三島氏の流麗な文章に心奪われていたのだと思います。

そうです。当時のくゆらす子は、まるで鎖国制度の中を生きた在りし日の日本人のように、

情報の洪水や新しいものへの執着に右往左往することなく、平凡で安穏とした日々をのびのびと過ごしていた、ということがお分かりいただけたでしょうか?

しかし、くゆらす子の平和は、イケてるクラスメートが乗り込んだ黒船の襲来で突如終わりを迎えます。

 

「くゆらす子って『ロンバケ』も知らないの?だっさーい」

忘れもしない、あれは3時間目の体育の終わり、着替えをしているときでした。

クラスのイケてるグループの中でも屈指の情報通で、まさに女王として君臨していたとある女子が、何故だか私に攻撃を仕掛けて来たのです。

彼女は最新のアイドル雑誌を学校に持ち込み、それを惜しげもなくクラスメートたちに披露することで、女王の座を欲しいままにしていました。

「だれだれ君は原宿のなになにってお店のアクセが大好き」だの「なんとかってグループのだれだれはなんちゃらってグループのほにゃららと付き合ってる」だのの

どこから得たのか分からない最新情報を、教室の中央で暴露する彼女はさながら芸能記者のようでしたから、彼女の名前は仮にナシモトさんとします。

ナシモトさんが何故平々凡々なくゆらす子に突っかかってきたのか判然としませんが、

恐らく彼女もまた暇だったのでしょう。

女王の最大の魅力である芸能情報にピクリともしない変なクラスメートを心配に思ってくれたのかもしれません。

こういう攻撃を受けたとき、漫画などであれば主人公は「そういう下らないコトにかまけている暇はないの。ごめんあしゃせ。(花背負う)」的なカッコイイ切り替えしができたのかもしれませんが、

当時のくゆらす子は何度も言いますが、ピュアで残念な少女だったのです。

「〇〇を知らないの?」と問われれば、「うん知らない!」と答え、

「それはいかがなものか」と苦言を呈されれば、「そうかなぁ?そうなんだああ!!」となってしまうほどのピュアで残念な心の持ち主だったのです。

私は、ナシモトさん言うところの『ロンバケ』とやらを、

来週の小テストの範囲と同じくらいの価値で考えていました。

余りにもピュアに「うん知らない!」と答えたものだから、ナシモトさんも毒気を抜かれたのか、その後は意外と親切に『ロンバケ』というものを教えてくれました。

それは何やら『キムタク』という現在トップ・オブ・ザ・トップに君臨しているアイドルが出演していたトレンディドラマで『ロングバケーション』の略。

主題歌の『ララララブソング』がすごく流行っている、というものでした。

そして必ず「これ観てないのはチョーやばいよ!」「絶対観ないとダメだよ!」と念を押すナシモトさん。

クラスの女王が口の端に泡を溜めてまで力説するんだから、観た方が良いんだろうな、

親切だなナシモトさん。恐縮です。…と体育着から着替えながらぼんやりと考えていました。

しかし4時間目のチャイムが鳴ると同時に『ロンバケ』が『ンバ』くらいに薄れ、

家に帰る頃には『(なんか四文字)』くらいの記憶に風化してしまったのです。

本当に、それはもう、心の底から、興味がなかったんでしょうね。

黒船襲来をまさかの「来たことをぼんやり忘れる」というペリーもびっくり戦法でかわしたくゆらす子。

あのまま思い出さなければ、私は今でも文学しか興味のない丸い眼鏡のおさげ女(超偏見)になっていたかもしれません。

 

しかしふと、私は思い出したのです。

『(なんか四文字)』のドラマを観ないといけない!と泡を飛ばすナシモトさんを。

夕食の席で、私は父に言いました。

 

「何かなんとかって4文字のドラマを観た方が良いってクラスの子が言ってた」

 

あ、あやふや~!!

父も「・・・へ~」としか返してくれません。

しかし薄いリアクションに逆に火がついたくゆらす子は、何故かどんどんヒートアップ。

 

「なんとかって4文字のドラマ!でもなんか英語の略!なんとかってアイドルが出てる!」

 

お、おぼろげ~!!

何て残念な記憶。そして良く分からないテンション。

これだけだったら「そうかそうか。くゆらす子は学校楽しいか。あ、母さんご飯おかわり」で終わってしまうと思ったのか、くゆらす子は最後に卑劣な一手を使ってしまいます。

 

「ドラマとか全然観たことないってことをクラスメートたちに超馬鹿にされた!って言うかイジメかも!そうだ!あれはイジメだ!」

 

あろうことかナシモトさん一派にこの良く分からないテンションの責任を被せたのです。

何て卑怯なくゆらす子。まさに恐縮です。

娘のこれまでにない強硬な態度に父はいささかびっくりしたようですが、

「下らないことを言ってないで玉ねぎ食べなさい。あ、母さんご飯おかわり」

とスルーしてこの場は収まりました。

 

どうしてあの時、あんなにも頑なな言い方をしたのか。

もしかしたらどこかで「クラスの中心的存在」に憧れがあったのかもしれません。

でもどうしてもそこに入りたい、という程の強い想いがあるわけでもなかったので、

あのような中途半端な情報で終始したのでしょうが。

何はともあれ「他人の目を気にする」ことを覚えたくゆらす子。

ピュアな少女時代が終わりを告げた瞬間です。

 

しかしその後はめっきり『(何か四文字)』のことなど忘却の彼方へと吹き飛び、

バッタを追いかけて溝にハマって骨折をする健全なくゆらす子に戻っていたのですが、それから1か月後くらいでしょうか。

父は忘れていませんでした。

何と日本人コミュニティクラブで例のドラマを借りてきてくれたのです。

娘の「イジメ」という言葉に敏感になったのかもしれません。

海外まで来て日本人となれ合うことを好まず、普段全くクラブを利用しなかった父が、

日本のトレンディドラマを握りしめ、カウンターへ並ぶ姿を想像し、

子を思う親の心に胸がきゅっと熱くなりました。

 

(ありがとう、パパ。ありが・・・)

 

感謝しながらVHSのケースを観ると、そこには『ハンサムマン』の文字が。

 

(あれ…なんか違う。っていうか絶対違う・・・)

 

く 「パパ、これじゃないよ多分」

父 「いや、これだろ。ドラマの棚にあったし」

く 「でもなんか四文字だった」

父 「英語の略だっつってたろ」

く 「でもハンサムマンは略さないでしょ」

父 「え?(めんどくせーな) あれだろ、『ハンサム』だろ(適当)」

く 「え?『ハンサム』?おかしくない?」

父 「あ?(威嚇)

く 「ですよねー。」

 

残念なくゆらす子とてそこまでバカじゃありません。

(HANDSOME・・・ CHIGAU ZETTAI・・・)

と思っていても、我が家は父の権力こそ絶対。

父が言えば『ロンバケ』も『ハンサム』となる独裁政権。

負に落ちない心を持て余しつつも、もともと忘れていたドラマだったので、

そんなもんか、そうだったのかもしれない、そうだろう、とすぐに気持ちを切り替えました。

聞き分けの良さとポジティブ変換性能は同世代でもベスト500くらいには入ると思います。

 

そしてなんだかんだと初めての日本のドラマに胸躍らせながら、再生ボタンを押したくゆらす子。

 

ここでドラマ『ハンサムマン』はどんなお話しだったかおさらいしてみましょう。

ハンサムな医師である佐伯トビオは、周囲の女性(患者、看護師など)の人気者であった。ある時、一人の初老の男性に出会う。その人から不思議な実「シンヘン」と言う惚れ薬をもらい「あなたが本当に愛している人の前でこの実を食べると、その人とずっと一緒にいることが出来る」と言われる。トビオはナンパした女性とホテルに行き、その実を彼女の前で口にした。すると、彼は少しでもエッチなことを考えると、女性に全く相手にもされないようなブ男に変身してしまうという不思議な能力がついてしまった。そんな中、トビオと一緒に働く新人看護師の高見萌子は、偶然起きたある出来事が原因で、彼を男としては軽蔑していた。彼女はトビオの変身後の姿とは知らずに、トビオ2号の誠実な態度に好意を寄せていく…。(Wikipediaより)

 

ただひたすらに顔のはっきりした青年がエロいことを考えるとデブな男に変身する…

というかつてないアバンギャルドでエッジ効きすぎな物語に、

純文学を愛するくゆらす子は呆然自失。

そんなドラマを激推ししたナシモトさん。何故貴女は。口の端に泡を溜めてまでこれを。

 

顔のはっきりした青年とデブな男と口角に泡溜めたナシモトさんが、

動揺するくゆらす子の瞳にオーバーラップします。

 

再び「これは『ロンバケ』じゃない説」が去来するくゆらす子の胸中でしたが、

VHSのパッケージを読んでいた母の一言が神の一手となりました。

 

「あ、この主役の子、ぶいしっくすじゃない。

 前にAきら叔父さんが取材に行ってたアイドルじゃないの」(前章参照)

 

ここで思い出すのはナシモトさんの『ロンバケ』に関する熱い解説。

 

現在トップ・オブ・ザ・トップに君臨しているアイドルが出演していたトレンディドラマ」

 

一致した!!!!

これは『(何か四文字)』や!!!!

 

アイドル知識など皆無なくゆらす子。「smap」など知るはずもないくゆらす子。

それならば聞き覚えのある「ぶいしっくす」の方がくゆらす子にとってはより著名なアイドルです。

ハンサムマンをロングバケーションと間違え、

木村拓哉長野博と勘違いするミスなど、一体誰が責められましょうか。

 

(へ~、この顔のはっきりとしたお兄さんが今一番人気のアイドルなんだ~。

 顔はっきりしてる~。)

 

もうくゆらす子の脳裏に「疑惑」の文字は微塵もありません。

私は(これは今日本で一番人気のアイドルが出演した今日本で一番人気のドラマだ)という確信のもと、

ただ真面目に、顔のはっきりとした青年がエロいことを考えるたびにデブな男に変身していく物語を全話観たのです。

 

ただ、当時長野くんのかっこ良さについては、相対的評価は刷り込みで理解しましたが、

個人的な感情は全くなかった、というのが本音です。

学校でも、2組の山本君がカッコイイ!3組の早川君がモテる!なんてわーきゃーする女子たちの中で、

「姿形の美しさで言えばピューマとかジャガーとかの方がカッコイイ」と考えていたくゆらす子でしたので、彼の美形はまだ生後11年そこらの女には早かったのでしょう。

しかし「ハンサムマン」というタイトルに相応しい主役だな、とぼんやり思っていたのは覚えています。

 

そして主題歌。ハンサムマンの主題歌はご存知ですね。

coming century至高の名曲『Theme of coming century』です。

 

ロンバケの主題歌『LA・LA・LA LOVE SONG』についても教えてくれていた親切なナシモトさん。

確かこれもすごく人気だった、と言っていました。

しかし『ロンバケ』を忘れた私にこんな長いタイトルが思い出せるはずもなく、

「ときがきたよ かみんせんちゅり まっていた にゅーらー」

とリズミカルな音に合わせて複数人とみられる男性たちが歌っているあの曲を、

私が久保田利伸の名曲だと思い込むことは当然のことでした。

 

「男のパワー 感じてダーウィン 誰も愛せないね 他に 

 ライダーライティン レッツゴ トゥ クレイジー 尻―」

 

純文学を愛するくゆらす子にとって、あまりに不条理な歌詞の世界。

この曲を激推ししていたナシモトさんが動揺でささくれ立つ私の脳裏に再びオーバーラップします。

 

でも刷り込みとは恐ろしいもので、

日本の芸能事情を全く知らなかったくゆらす子にとって、

『ハンサムマン』『V6』『長野博』『Theme of coming century』は、

「これが日本の一番カッコイイとされる世界なんだ」という解釈で、

意外とすんなりと受け入れられたような気がします。

 

そしてもう一つくゆらす子家族に大きな変化が。

この『(何か四文字)』騒動に端を発した『ハンサムマン』の鑑賞をきっかけに、

我が家の鎖国制度が解かれ、父母が日本のドラマやバラエティ番組を借りて来る機会が増えたのです。

それは中一で日本に帰国するまで続き、その過程の中でゆるやかにロンバケの真相やキムタクの正体を知っていくのです。*1

 

ナシモトさんとも色々とお話をしたかったのですが、

彼女は小学校卒業を待たずして日本に帰国してしまい、その後仲を深めることもなく今もどうしているのかは分かりません。

日本では皆が当たり前のようにジャニーズやドラマに精通していることを私も後年に理解することになります。

荒い手口でしたが私に日本の芸能トレンドを教えてくれたナシモトさん、

クラスの女王に君臨していたナシモトさんが、

日本に帰っても教室の中央で口の端に泡をつけて幸せでいてくれることをぼんやりと願っていたことを覚えています。

 

さあ、かくしてV6、特に長野くんに、(誤認という形ですが)一歩踏み込んだくゆらす子。

この後は日本での生活編となり、多少ご本人たちも登場し始めます。

二章も途方もない長さになりました。

どうやら私は端的に物事をまとめる力がないようです。

またお暇なときにお付き合いください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:当時日本の芸能が東南アジアでもブームとなり、日本語のカラオケができたので同級生たちと行ったときにドヤ顔で「レッツゴトゥクレイジー尻ー」と歌い我が家の誤認ハンサムマンが暴かれたのはまた別のお話し